「シフトと仕入れ、何を基準に決めていますか?」
ある焼肉チェーンの店長に尋ねると、返ってきた答えは「勘」でした。日立で鉄道会社向けのシステムを手がけていたエンジニアが、小さな飲食店に来客数予測AIを持ち込もうとしたところから、株式会社みんなのAIの物語は始まります。
完成したAIを店長に見せたときの第一声は、「すごい」ではありませんでした。「ちょっと外れるよね」。その一言から栗田侑樹さんが学んだのは、来客数予測AIのような重めのツールは、いきなり持ち込んでもすぐには現場で使いこなせない、という現実でした。
今回は、京都に拠点を置く株式会社みんなのAI代表取締役・栗田侑樹さんに、飲食店や訪問介護での導入事例と、「現場のやり方を大きく変えず、今ある業務になじませていく」という導入の考え方をお伺いしました。
「勘」で回る焼肉店──来客数予測AIが生まれるまで


編集長
最初に手がけた焼肉店では、もともと仕入れやシフトをどのように決めていたんですか?
栗田さん
勘って言われたんですよ。お客様がこれぐらい来るだろうから、材料はこれぐらい、シフトはこれぐらい入れればいい、というところから始まっていました。
酒類営業の知人からの紹介で始まった
――そもそも、どういう経緯で焼肉店と関わることになったんですか?
栗田さん:焼肉店の社長と直接やり取りしていたわけではないんです。飲料メーカーのように、飲食店へお酒の営業をしている会社がありますよね。その会社で営業をしている知人から「業務が非効率だって悩んでいる飲食店があるんだけど、話を聞いてくれない?」と声をかけられて、2〜3店舗を展開する焼肉チェーンの紹介を受けました。
――その焼肉店は、どんな悩みを持っていたんですか?
栗田さん:最初の相談は、「原価率を下げたい」というものでした。メニューの原価率を下げられれば、その分お店の利益が大きくなりますし、値下げや新規のお客様の獲得にもつながるかもしれません。
その焼肉店の役員が、もともと大きなファミレスにいた方で、仕入れやシフトを勘で決めている現場を見て、「ここで来客数を予測するAIがあればいいよね」という話になり、それがAI導入の入口になりました。
「なんとかなるんじゃないかな」で作り始めた
――その来客数予測AIは、もともと開発していたものだったんですか?
栗田さん:依頼を受けてから頑張って開発しました。
――「絶対に完成できる」と確信していたんですか?
栗田さん:なんとかなるんじゃないかな、という気持ちでした。そもそもAIは、一発で完成させるのが難しいものです。作り終えてみて初めて、どれくらいのレベルのものができたのかが分かってきます。
それでも、修正を重ねていけば最終的には形にできるはずだと考えていました。もともと僕は外食が好きで、それぞれのお店が元気でいられたり、値段を下げて気軽にみんなが外食に行けたりすると嬉しいんです。
そうした思いと、技術的に「できそうだ」という見立てが重なって、開発に踏み切りました。
「ちょっと外れるよね」──いきなりAIを入れて学んだこと


編集長
完成したAIを店長に見せたとき、どんな反応でしたか?
栗田さん
「すごい!」というよりも、「ちょっと外れるよね」という感想でした。
まず業務の基盤を整え、その先にAIをつなげる

――そこから、どう立て直していったんですか?
栗田さん:来客数予測AIを無理に磨き込むより、先に現場の足場を整えることにしました。改善もしましたが、そもそも飲食店にとって来客数予測AIは、急に入れるものじゃないよね、という話になったんです。
まずは日々の業務をDX化(デジタル化して効率化すること)するシンプルなシステムを入れて、業務そのものを楽にしていく。それがある程度定着してから、「こういうAIもありますよ」と提案する。その順番が一番いいのだと学びました。
これは、AIの精度が低かったから後回しにしたという話ではありません。現場がシステムを受け入れる順番を、僕が見誤っていた、ということなんです。
――では、来客数予測AIは、どのタイミングで導入するのがよいのでしょうか?
栗田さん:いきなり来客数予測AIから入ることは、おすすめしていません。まずはシンプルで簡単なシステムで日々の業務を整え、現場に定着してから、その先につなげていくイメージで導入すると良いです。
来客数予測AI自体は、とてもいいツールだと思っています。ただ、データの量が多ければ多いほど精度が上がっていくものなので、現場でデータが積み重なってきた段階で活きてきます。
1年分のデータが溜まって、少しずつ良くなっていく。作って終わりではなく、現場で使いながら精度や使い方を合わせていきます。
「調子乗りすぎた」という正直な振り返り
――最初は、完璧なものを納品しようという気持ちだったんですか?
栗田さん:軽い気持ちで始めて、進めていくごとに、いろんな試練を受けていました。調子乗りすぎたってなるやつです(笑)。
――どのような試練だったんですか?
栗田さん:これも起業して学んだことですね。作っている側は「これ、めっちゃ面白い」と思っても、導入する人からしたら「どう使ったらいいの?何のために使うの?」という話になってしまうんです。
作り手と使い手で、見え方がまるで違っていて、使いこなせないものを導入してしまっていました。
――導入した後のフォローは、どうしていますか?
栗田さん:そこは正直、難しさもあります。お客様によっては、導入後にこまめに連絡を取りづらく、実際どう使われているかを把握しづらいこともあります。
すべてのお客様と同じ密度で関わるのは、少人数で運営している分、どうしても難しい部分があります。それでも、できる限り連絡を取り、必要に応じて機能を追加しながら、長くいい関係を続けられているお客様もいます。
訪問介護でも同じ思想──「みんなが使えるAI」の守備範囲


編集長
飲食店以外で、好評だった事例はありますか?
栗田さん
訪問介護向けにシフト管理のシステムを作ったら、「ありがとうございます」と、いい反応をいただきました。
本部と現場をスマホでつなぐシフト管理
――どんな仕組みなんですか?
栗田さん:訪問介護は、各従業員が利用者さんのお宅を回るので、本部に頻繁に戻ってくるのが難しいんです。そこで、代表者がネット上でシフトを作り、従業員は個人のスマホで確認する。そこがメインになるシステムを作りました。
――反応はいかがでしたか?
栗田さん:単純なシフト管理なんですけど、毎日の手間が減って助かっていると、ありがたい言葉をいただきました。このシフト管理を土台に、今もいろいろな機能を追加しています。
ご高齢の経営者にとっては、AIの前に壁がある
――介護の業界は、AI導入があまり進んでいないんですか?
栗田さん:そもそも、こういうシステム自体が市場にあまりなくて。それに、訪問介護のような介護事業の責任者の方が、70代だったりするんですよ。70代の方にパソコンでやれるようなものは、ハードルが高かったりしますね。
――では、AI導入が向いているのは、どんな会社ですか?
栗田さん:それこそ、さきほどの訪問介護のような現場です。システム自体はシンプルでも、受ける側に「使ってみよう」という気持ちさえあれば、テコ入れできるところはいくらでもあります。
チャンスは大きいと思いますよ。いきなり高度なAIから入ろうとするより、まずは身近な業務を整えて、システムに慣れるところから始めるのがおすすめです。さっきお話しした段階的な進め方と、同じ考え方です。
日立での鉄道システム開発から、京都での起業へ──「大きすぎて役に立たない」経験が残したもの


編集長
起業される前は、どんなお仕事をされていたんですか?
栗田さん
日立で、鉄道会社向けのシステムを作っていました。その電車を一部、自動で走らせるようなシステムです。
鉄道の運行管理と、小さな飲食店のAI
――大企業での開発経験は今に活きていますか?
栗田さん:仕事の進め方や、どういう流れで開発を進めればいいか、といったところは日立で学びました。ただ、当時のお客様は鉄道会社ですから。経験としては大きいんですが、大きすぎて、僕の会社では役に立たないっていう(笑)。そうしたシステムを小さな飲食店にそのまま持ち込むのは、正直、めちゃくちゃ難しいんです。
来客数予測AIを作りたくて起業した
――起業のきっかけは、来客数予測AIだったんですか?
栗田さん:外食の世界をもっと元気にできるようなことをやりたいな、と思って起業しました。飲食店の知人からAIの相談を受けたのは、まだ個人として動いていた時期でした。来客数予測AIを作ってみて、これは事業にできると感じたことが、起業のきっかけです。
ただ、起業して間もなく大きな病気をして、半年ほど事業をほとんど動かせない時期がありました。それでも契約を続けてくれた企業があって、その関係を支えにしながら、少しずつ立て直せてきています。
――「みんなのAI」という社名には、どのような想いが込められているのでしょうか?
栗田さん:みんなが使えるAIを作る、という思いがあります。だから、みんなのAIという会社名なんです。導入のハードルが低いところから入り、段階的にAIへつなげていきます。この進め方も、あらかじめ決めていたわけではなく、最初の導入で学びながら固まっていきました。
AI導入を考えている企業が、最初に確認すること


編集長
AIの導入は、どう進めるのが現場にとってやりやすいですか?
栗田さん
お客様のシステムを大きく入れ替えると、お客様も困りますし、こちらもコストが一気に膨らみます。できるだけシンプルに、今までの業務に沿った形で出せるものにしています。
まずは今の業務を整理する
――段階を踏むとして、最初の一歩はどこからになりますか?
栗田さん:うちの方針としては、最初に推すのは来客数予測AIではなく、まずはもっとシンプルで簡単なシステムを作って、それをたくさん導入していきます。そのうえで、来客数予測AIのような一歩進んだものへつなげていきます。
――ご自身の会社でも、同じやり方をしているんですか?
栗田さん:自分の会社で業務効率化のシステムを作って、それを売ればいい、ぐらいの感じで思っていたりします(笑)。売れるかどうかはまた別ですけどね。とりあえず試してみて、ダメだったところをまた勉強したらいい。やれそうなことをやっていく、という考え方でやっています。
「AIってそういうことできるの?」から始まっても大丈夫
――経営者の集まりでは、どんな反応が多いですか?
栗田さん:どちらかと言えば、「AIの会社って、そんなこともできるの?」という反応が多いです。「AIってよく分からないから教えてよ」と言われて、AIってこういうものですよ、と講義をさせてもらったりもします。
――そういうとき、料金の説明はどのようにされているんですか?
栗田さん:いきなり料金の話はしていません。お金の話になると、「それは高いから、ちょっといいかな」となりがちなんです。お金よりは、まず経験でしょうと思っていて、まずはAIで何ができるかをお伝えして、興味を持ってもらえたら金額の話をする、という順番にしています。
会社概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社みんなのAI |
| 代表者 | 栗田侑樹(くりた ゆうき) |
| 所在地 | 京都府京都市下京区七条御所ノ内西町25番地7 |
| 事業内容 | AI開発・導入支援(来客数予測AI「DineAi」、業務DXシステム、受託開発) |
| 公式サイト | https://www.minna-no-ai.jp/ |
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インタビューを終えて
今回の取材で印象に残ったのは、AI導入の入口が「勘で仕入れやシフトを決めていた」という、とてもアナログな現場の悩みだったことです。来客数予測AIという言葉だけを見ると高度な話に聞こえますが、出発点は、現場の毎日の判断を少しでも楽にしたいという相談でした。
栗田さんが正直に話してくれたのは、最初に作った来客数予測AIが「ちょっと外れるよね」と言われたこと。そして「調子乗りすぎた」と笑いながら振り返る、試行錯誤の過程でした。導入直後からきれいに成果が出るわけではありません。だからこそ、まず業務の基盤を整え、その先にAIをつなげるという順番に行き着いたのだと感じました。
飲食店だけでなく、訪問介護のシフト管理でも、同じ考え方が貫かれていました。「みんなが使えるAIを作る」という会社名は、導入のハードルが低いところから始めるという姿勢そのものなのだと、話を聞きながら腑に落ちた気がします。
AI導入は、いきなり大きなシステムを入れる話ではありません。まずは困っている業務を言葉にして、毎日の作業を少しずつ整理することから始まります。栗田さんの事例は、その順番を考えるための、地に足のついたヒントになるはずです。

