展示会や交流会で、30枚、50枚と名刺を持ち帰る。けれど、翌日までにきちんとフォローのメールを送れている人は、統計的にわずか1%だといいます。残りの99%は、やる気がないわけではありません。ただ時間が足りなくて、名刺の山が机の隅に積まれていくのです。
もし、一通ずつ相手に合わせたメールを送れたら、商談につながる確率は10%まで上がる。10倍以上の機会が、机の上で眠っているのです。この落差を、営業代行の現場で誰よりも痛感してきたのが、WeSales株式会社の木村海樹さんでした。
今回は、木村さんに、AIで営業メールを自動化する仕組みと、「AIに嘘を書かせないために引いた一線」、そして名刺の山に悩んでいた起業前の話まで、じっくりお伺いしました。
「翌日フォローできるのは、わずか1%」──名刺の山が眠る営業現場


編集長
WeSales株式会社では、営業メールの作成をどのように自動化しているのでしょうか?

木村さん
「WeSales AI」という、営業メールを自動で作成するツールを提供しています。名刺をスマホで撮影するだけで、相手に合わせたメールができあがる仕組みです。展示会や交流会によく足を運ぶ営業の方を、メールの作業から解放したくて開発しました。
名刺は山積みでも、フォローできるのは1%
――展示会や交流会のあと、名刺のフォローは、実際どれくらいできているものなんですか?
木村さん:名刺交換をしても、その後のフォローまで手が回らない営業の方が、本当に多いんです。せっかくたくさんの名刺をもらっても、忙しくて時間が取れず、翌日までにきちんとフォローできている方は、統計的に1%ぐらいしかいません。
どんな商材でも、パーソナライズされたメールを送れば、10通に1通は返信がもらえています。これは私自身の営業代行での実績でもあります。返信さえもらえれば、そこから商談につなげる可能性が生まれる。だからこそ、名刺を放置するのは本当にもったいないんです。
――あまり反応を示さなかった相手でも、メールを送った方がいいんですか?
木村さん:送った方がいいと思っています。交流会だと、がっちり話し込めた相手も、短く名刺交換しただけの相手もいますよね。でも、自分が感じている手応えと、相手が感じていることには、思ったより乖離があるんです。
話すのが苦手なだけだったり、本当は向こうから発注を頼みたかったのに、恥ずかしくて言えなかっただけかもしれない。それを自分の判断で「あの人は盛り上がらなかったから、いらない名刺だ」と置いてしまうのは、もったいないと思います。
名刺をスキャンすると、メールができあがる

――WeSales AIは、どういう仕組みでメールを作成しているんですか?
木村さん:名刺をスマホのカメラで撮ると、裏側でAIが動いて、名刺から引っ張れる情報を全部洗い出してくれます。会社のホームページを検索したり、代表の方の名前があれば、最近メディアに出ていないかを一気に調べたりして、そこから一つひとつカスタマイズしたメールを作ります。
場面によってテンプレートも分けられます。交流会の後に送るのか、展示会の後に送るのか、普段のメルマガ的に使うのか。「昨日の交流会でご挨拶させていただいた者です」というメールを、一気に作ってくれる感じです。
カレンダーと連携すれば、自分の空いている日程をメールの中に組み込んで、「この日程でいかがですか」というところまで提案してくれます。
確実に取れる情報だけを使う──AIに嘘を書かせない線引き


編集長
AIが企業情報を調べて書く以上、間違った情報を書いてしまうリスクもありそうですが?

木村さん
AIを使う以上、いわゆるハルシネーション(AIが事実と違う情報を生成してしまうこと)が一番良くないと考えています。だからこそ、確実に取れる情報だけを使い、少しでも怪しいものには踏み込まない設計にしています。
少しでも怪しい情報は、取りに行かない
――ハルシネーションを防ぐために、何をしているんですか?
木村さん:一番根本にあるのは、「これ、どうなんだろう」と少しでも引っかかる情報は、取りに行かないことです。たとえばSNSで同じ名前のアカウントが2つあったときに、「多分こっちだろう」という曖昧なところは、取りに行かないようにしています。
基本的には、名刺から取れる情報のみに絞っています。具体的には、名前や住所、メールアドレスのドメイン、それに名刺へ記載されたホームページです。そのホームページを隅々まで読み取るので、思っているより取れる情報は多いんです。
同じ会社名は世の中にたくさんあるので、それをどうさばくか、どう事実確認するかというファクトチェックも、かなり綿密に仕組みとして組み込んでいます。
――SNSの情報は、どのくらい使っているんですか?
木村さん:見つけられるものは見つけますが、個人アカウントの特定はかなり難しいんです。偽物の情報が入るのが一番怖いので、基本的にはSNSを除いた、ホームページなどのドメインから検索していく形にしています。
情報が少ない相手こそ、設計が問われる
――ホームページの情報が少ない場合は、どのように対応しますか?
木村さん:そこがまさに、特許を申請しているところです。情報が少なそうな場合も、条件に基づいて細かく場合分けしていきます。
たとえば、そもそもホームページがない方もいます。その場合でも「ホームページを探したのですが、見当たらなかったので」といった一文を添えて、AIがメールの文章を自然につないでくれます。情報が少なければ少ないほど定型文には近づきますが、それでも一通一通が同じにならないようにしています。
――WeSales AIの裏側では、どのAIが動いているんですか?
木村さん:GeminiもClaudeもChatGPTも、基本的にはどのAIツールも走らせています。それぞれ個性があって、Geminiは知識量が豊富ですし、Claudeは日本語の文章生成にかなり強いんです。役割をはっきり分けるというより、全部のAIに全工程を通させて、その中からどれが正しいかを判断する。いいとこ取りに近いイメージです。
皆さんが全部のツールを自分で使おうとすると、なんだかんだお金がかかります。そこをうちが包括して使った上で、どういう判断基準にするかを、システムに組み込んでいます。
自分が一番使うから、お客様より先に異変に気づける
――AIツールは、頻繁にアップデートされますよね。出力のチェックはどうしているんですか?
木村さん:毎日のようにしています。管理者側として自動で確認する仕組みも整えていますが、私自身も交流会に行くので、自分が一番使っているんです。1日に1回もスキャンしない日はないですね。
アップデートに伴って何かが起きることもあるので、まずAIに検知させる仕組みを持っています。そのうえで、お客様より先に私が気づかなければいけない立場なので、肉眼でも毎日確認しています。バグに気づくのがお客様の方が早かったら、申し訳ないじゃないですか。だからこそ、自分が誰よりも使い込んで、毎日チェックを欠かさないようにしているんです。
「AIが書く」のではなく「あなたを再現する」──強みと、向き・不向き


編集長
数あるAI営業ツールの中で、WeSales AIならではの強みはどこですか?

木村さん
「AIが書く」のではなく、「AIがあなたを再現する」。そこが、一番うたっているところです。
どんな日でも、AIが「あなたらしく」文章を整える
――「あなたを再現する」とは、どういうことですか?
木村さん:AIが文章を書けますと言われても、まだ不安な方は多いと思うんです。だからGmailと連携していただいて、過去のメールをAIが読み取れるようにする仕組みを持っています。
極端な話、昨日すごく気分が良かったときに書く文章と、今日熱が出て体調が悪いときに書く文章とでは、それだけで少し違ってきますよね。文章の質は、意外と人間の気分や体調に左右されてしまうものなんです。
その点、過去の文章を読み込んだAIが、あなたを再現するように書いてくれます。使っていただいた方に一番喜んでいただけるのは、どれだけ「私が書いた文章になっているか」という部分なので、そこにはかなり力を入れています。
向いているのは、名刺を多く交換する営業職
――このツールは、どんな人に向いていますか?
木村さん:一番わかりやすいのは、名刺交換をする営業職の方です。場所で言うと、展示会や交流会ですね。名刺交換が頻繁に行われて、1日の量も膨大なので、フォローに1日かかってしまうこともザラにあります。
会ったことのない相手でも、営業リストをCSVで取り込めば、ホームページとメールアドレスをもとに一斉送信もできます。理屈は、名刺交換のときと同じです。
逆に、毎日1枚ずつしか名刺をもらわない方でも、相手に合わせた文章を短時間で作れるなら、それだけで効率的になると思います。
向いていないのは、メールで取引をしない人
――反対に、まだ使わなくてもいいのは、どんな人でしょう?
木村さん:営業職の中でも、テレアポだけ、訪問営業だけ、あるいはBtoC向けだけで、メールでわざわざ取引をする必要がない業種の方ですね。たとえば飲食店なら、正直、公式LINEなどの方が向いていると思います。
あとは、そもそも名刺を全く交換しない方や、急いで使う必要がない方も、まだ使わなくていいかなと思います。メールに特化したツールなので、そこが合うかどうかですね。
一つだけ心理的な障壁があるとすれば、メールってなんとなく「きちんとしたもの」というイメージがあるので、それをチャット形式で扱うことに、最初は少し抵抗を感じる方もいるかもしれません。
名刺の山に、ため息をついていた頃──WeSales AIが生まれるまで


編集長
そもそも、WeSales AIを作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?

木村さん
実体験が一番のベースになっています。私は学生の頃から個人事業を始めていて、最初に手がけたのが営業代行だったんです。
営業代行で、毎週100枚の名刺をさばけなかった
――営業代行をしていた頃は、どんな状態だったんですか?
木村さん:テレアポをしたり、交流会に行って代わりに営業したりしていました。自分の案件を取りに交流会へよく参加していて、毎回20〜30枚の名刺が集まります。週に3回繰り返すと、だいたい毎週100枚ぐらいになるんです。
その100枚をフォローしようとすると、1社あたり10〜15分かかります。何十時間にもなる計算ですが、日中は商談やテレアポで全く時間がない。商談を増やすために交流会へ行っているのに、その商談を増やすためのメールが書けない。このジレンマが、結構きつかったんです。
自分のために作ったら、「良すぎた」
――そこから、どうやってツールにしていったんですか?
木村さん:2025年の年末に、交流会で出会ったフリーランスのエンジニアに「こんな感じで作ってください」とお願いして、小さく外注したのが超ベータ版でした。当時はまだAIに疎くて、Claudeもあまり知らなかったくらいです。
それを1週間ぐらい使ってみたら、「これは良すぎる」となりました。そこから自分でもコードを勉強し始めました。といっても、私は技術職では全くないので、コードを勉強したというより、AIに書いてもらってコピペするくらいなんですけど。それでも本当にできてしまう世の中になったことに、びっくりしました。
最初は、商品化しようとも、売ろうとも思っていませんでした。自分の営業代行のために必要だっただけなんです。でも自分で使ってみて「良すぎる」と感じ、周りの経営者の方にも使ってもらったら「これいいね」と言ってもらえました。だったら、同じように困っている人がさすがにいるはずだと思い、事業として始めることにしたんです。
社長に断られると、現場に届かない
――WeSales AIは、いくらで提供しているんですか?
木村さん:今いちばん広めたいのは、個人向けの月額980円プランです。もともとは、法人向けの月2万円プランから始めました。でもそれだと、導入を検討する会社の社長が「このツールはいらない」と判断した瞬間に、現場の皆さんが使えなくなってしまうんですよね。
私自身が交流会に参加していたからわかるんですが、交流会に来ているのは社長ではなく、営業の方ばかりなんです。一番上で断られて、本当に使ってほしい人に届かないのが、すごく嫌でした。それで、その20分の1にあたる月額980円の個人プランを新しく作って、2026年4月1日にリリースしました。
当時の私なら、1000円なら正直、失敗しても惜しくないと思える金額でした。利益の旨味はそこまで考えていなくて、アポイントのノルマを抱えているのに時間がなくて達成できない、そういう方に広めたいという思いの方が強いです。
――印象に残っているユーザーさんはいますか?
木村さん:個人プランをリリースして、まだ10人目ぐらいの登録ユーザーの方でした。一度ツールを使った後に、私のサービス説明の投稿を引用して「このツール、使い始めたんですけど、本当にアポが取れました。ありがとうございます」とXに投稿してくれたんです。
お金も報酬も出していないのに、自分から、しかも私の知らないところで投稿してくれました。あれは本当に嬉しかったですし、サービスをローンチして良かったと思えた瞬間でした。
AIで営業を効率化する前に、まず「どこに一番時間がかかっているか」を知る


編集長
これからAIで営業を効率化したいと考えている人は、まず何から始めればいいですか?

木村さん
まずは、営業のどのフェーズに一番時間がかかっているかを、知ることだと思います。リサーチなのか、文章を書くところなのか、返信の対応なのか。そこがはっきりすると、導入した後の効果も測りやすくなります。
AIの文章を送ることへの抵抗は、先に話しておく
――チームで使うときに、気をつけることはありますか?
木村さん:「AIが書いた文章をそのまま送ること」への抵抗感を、事前にチームで話し合っておくと、導入後のトラブルが減ると思います。最終的に送る判断をするのは人間だ、という前提で設計しているので、そこを共有しておくと安心です。
まずは無料で、名刺10〜20枚から
――小さく試すなら、どこから始めるのがいいでしょう?
木村さん:無料のトライアルから始めて、直近の交流会や展示会でもらった名刺10〜20枚に使ってみるのがおすすめです。クレジットカードの登録も必要ありません。
実際に生成された文章を見て、「これなら送れる」と思えるかどうかが、最初の判断ポイントになります。新しいツールを使うのは、いつものやり方を一つ変えることなので、抵抗がある方もいると思います。だからこそ、まず一度、試してみてほしいんです。
営業職を、メールから解放したい
――木村さんが、これからも変えたくない信念はありますか?
木村さん:個人の営業職の方を、本来やらなくてもいいはずのメールのような事務作業から解放したい。これは、ずっと変わりません。
私たちの世代は、寝ずに長時間働く世代ではないと思っています。AIで多くを代替できるのであれば、そうした方がいいと思っています。営業職なら、商談に時間をかけた方がいいんです。便利なAIがあるのに、わざわざ自分で考えてメールを打っている時間は、本当にもったいないと思います。
ちゃんと頑張っているのに、なぜか結果につながっていない人を助けたい。その思いは、今後も絶対にブレないですね。
会社概要

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | WeSales株式会社 |
| 代表者 | 木村海樹 |
| 所在地 | 東京都渋谷区恵比寿西2-8-4 EX恵比寿西ビル5F |
| 事業内容 | 営業向けAIメール自動生成ツール「WeSales AI」の開発・運営、および営業支援事業 |
| 公式サイト | https://we-sales.com |
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インタビューを終えて

編集長
最後に、これからAIを取り入れようか迷っている方へ、メッセージをお願いします。

木村さん
とにかく、一歩踏み出してほしいです。世の中には、優秀なのに知られていないツールがたくさんあります。無料で試せるものも多いので、一度使ってみて、「こんなに楽になるのか」というのを知ってほしいんです。
今回の取材で印象に残ったのは、AIの話というより、「名刺の山を前にため息をついていた」という、とても身近な現場の悩みが出発点だったことです。展示会や交流会に行ったことがある人なら、一度は見たことのある景色だと思います。
木村さんが何度も口にしていたのは、「わからないことには、踏み込まない」という線引きでした。AIに何でも任せるのではなく、名刺から確実に取れる情報だけに絞り、少しでも怪しい情報には手を出さない。便利さよりも、相手の信頼を損ねないことを優先する姿勢が、一貫していました。
そして、このツールがもともと「自分が楽になるため」に作られたものだった、という話も印象的でした。毎週100枚の名刺をさばけずにいた一人の営業マンの困りごとが、同じように困っている誰かのための商品になっていく。出発点が自分の実体験だからこそ、語る言葉に説得力があるのだと感じました。
AIで営業を変えるというと、大がかりな話に聞こえるかもしれません。けれど木村さんの話は、まず机の上にある名刺を一枚手に取って、相手に一通メールを送ってみる。そんな小さな一歩の積み重ねなのだと教えてくれます。AIを入れるかどうかを考える前に、まずは自分の営業のどのフェーズに一番時間がかかっているのか、名刺のフォローが今どれくらいできているのかを、一度振り返ってみるところからでもいいのかもしれません。

